『大好きだよ』
言葉ではないけれど。
胸のなかに、確かに、響いてくる声がある。
誰もいない、灼熱の太陽が照りつける砂漠の中、
偶然見つけたオアシスで、
喉を潤し、水に入って汗を流す。
水は、泉の底が見えるほど透明で、清冽だった。
強烈な陽差しにさらされて、火照った肌には、この冷たさがとても心地いい。
泉の周囲には、萌えるような緑色の若草の絨毯が広がり、
水際に、可愛らしい薄桃色のヒルガオの花が咲いている。
気持ちよさそうに、時折水に潜り、
日焼けした肌に水を浴びる、筋肉の乗った逞しい背中が、
とても綺麗で、色っぽくて。
私は彼より少し離れたところで、肩まで水に浸かりながら、
小さくなって、青空や雲を映した水面ばかり見つめていた。
なにげない瞬間に、ふと目が合う。
どきりとしてつい少し戸惑ってしまう私に、屈託のない笑顔が向けられる。
こんな瞬間が。
今、私にとって、
たまらないほどに幸せなのだ。
自然を装って、彼に背中を向けると、
水の中を、ゆっくりと歩く音がして。
後ろから、彼の大きな手が、私の肩に触れた。
「大丈夫。こんなところ、誰も来ないよ」
「うん。そうね」
知らず知らずのうちに、水辺に伸ばした指が、ヒルガオの花を摘んでいた。
そのまま、背中に、彼の肌を感じ、
後ろから、そっと抱き締められる。
まるで、時が止まったみたいに。
私たちは、触れ合わせた肌と肌から、幸せを感じていた。
ほら、また。
言葉じゃないけれど、彼の声を、感じる。
『ビアンカ。
大好きだよ』